知京 豊裕

ToyohIro CHIKYO

日仏工業技術会会長(国立研究開発法人 物質・材料研究機構 外部連携部門 部門長)

 

本年、6月の総会で岩田忠久前会長の後任として日仏工業技術会の会長を拝命いたしました。1955年に創立され、日仏の工業技術に関する交流を支えてきたこの会の重要性とこれまでの貢献を考えると身の引き締まる思いです。

2020年に始まった新型コロナウイルス感染症も次第に収束し、人々の交流も再会され以前のような日常が戻りつつあります。日仏工業技術会としてもより活発な展開を再開したいと考えております。

日本とフランスの産業技術交流の歴史は、19世紀から始まり、現在まで続いています。明治時代、日本は近代化を進めるために欧州諸国との交流を積極的に行いました。フランスもその一翼を担い、日本の産業技術や文化面での近代化に影響を与えてきました。戦後の復興期には、日本とフランスの産業技術交流が再び活発化しました。このような中で誕生したのが、日仏工業技術会です。当会は委員会形式で科学や技術開発の分野で協力し、現在では常設の建築都市計画委員会、鉄道交通委員会での交流を中心に活動しています。また、他の分野で日仏工業技術会が取り扱うべき新たな領域もでてきています。例えば、通信、半導体、材料などの分野です。

 この分野に関して、当会は「日仏交流160周年記念、日仏情報通信フォーラム-デジタル変革時代に向けたテクノロジー戦略ー」を2018年に、また、2014年と2017年には、「三次元集積回路の課題と今後の展開に関する日仏ワークショップ」を主催し、日仏間の連携を促進するための会議を企画してきまた。特に半導体産業は現在大きな転換点にあります。微細化が進む一方で機能のことなる半導体デバイスを薄くして張り合わせて配線するChipletが注目されています。「三次元集積回路の課題と今後の展開に関する日仏ワークショップ」で議論した内容がこのChipletです。これは、半導体技術における新たなアプローチであり、強力で汎用性の高いシステムを実現することができると期待されています。特に最近、期待が高まっているのは、人工知能デバイスへの応用です。人工知能のための専用デバイスと汎用プロセッサを組み合わせることで、機械学習アクセラレータを構築でき、推論と学習過程の高効率かと演算速度の向上が期待され、将来の自動運転のためのデバイスとしても期待が高まっています。半導体分野ではフランスにはCEA-Letiがあり、欧州における半導体研究の拠点の一つになっています。今後の連携が重要になります。

日仏工業技術会は異なる分野の専門家で構成されています。それぞれの専門性と人的ネットワークを生かしたオンライン講演会を企画してまいりましたが、このオンライン講演会を今度も活用してこの会から多様な分野の情報発信ができればとおもっています。

 日仏工業技術会は会誌の「日仏工業技術」とフリーペーパー「L‘Change」を発行しています。会誌は専門性の高い情報発信のツールであり、「L‘Change」はフランスの文化や生活など幅広いトピックスを扱っています。これらを介して日仏工業技術会はこれからも日仏の技術的・文化的な「かけはし」としてその役割を実現していきたいと思っています。

 本会の趣旨にご賛同いただける多くの方のご参加をお待ちしております。

 

知京豊裕 略歴

国立研究開発法人 物質・材料研究機構 外部連携部門 部門長

1959年福岡県生まれ。1979年早稲田大学理工学部電子通信学科入学、その後、同大学大学院をへて1989年工学博士。1989年4月、旧科学技術庁金属材料技術研究所に入所、以後、GaAs量子ドットをつかった発光素子の開発に携わる。1999年、先導研究「コンビナトリアル材料科学の創成と先端産業への展開」に参加し、三元コンビナトリアル合成法を開発し、その手法を集積回路のHigh-k材料やメタルゲートなどのゲートスタック材料開発に応用した。この技術を使ってFin型フラッシュメモリ用の材料開発やSi基板上の無極性GaN-LEDの開発をすすめた。2017年よりデータ駆動型材料開発を進め、2018年、統合型材料開発・情報基盤部門(MaDIS)材料データ科学グループ長となり、2022年より現職