ジャン・プルーヴェに見る建築の未来像
Jean PROUVE, l'incarnation du futur de l'architecture
河辺哲雄 Tetsuo KAWABE
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パリの北西部クリシーの人民の家はプルーヴェ建築における初期の代表作といえる。
そこには、鉄製建築の重要な進化過程が見て取れる。
50m×40mの長方形の建物は1階が市場、2階には最大2000人を収容できるホールとそれを中心に前後左右にオープンなホワイエスペース。階段や水廻りは建物の四隅に配置され、一部は4階建ての事務所になっている。
プルーヴェが当初考案した構造システムはスチール折曲架構による8本柱の主体構造(図1)の両側面
ににあたかもバットレスのようなL型の架構(図2)が接合する形式であり、その外装のイメージとはうらはらにバシリカ式聖堂の身廊と側廊のような関係性をもったプランニングであり、極めて古典的な形式であることは面
白い。しかしながら折り曲げ材は主として経済的な理由によって、実施段階で既成の型材に置き換わった。
当初は2階のホール部分の床は7枚のパネルに分割され、舞台下に格納され、1、2階が空間として一体化することが可能であった。
また、このオーディトリアム部分の壁は、高さ約8m、幅1mはあろう吊下げ式のスライディングパネルになっており劇場とホワイエを短時間に分けることが可能であった。さらに屋根部では、主体構造の大梁の上を2連の切妻形状のガラス屋根の構造がスライドし、ホール上部を開放することを可能にしている。
また、この建物のもう一つの特徴は、世界初ともいえる工場生産によるカーテンウォールの実現である。ここではスチール薄板を折り曲げ加工し、外壁と内壁を一体化したサンドイッチパネル状のもの(内部には断熱材を充填している。)と、同じくスチール折り曲げ加工によるサッシュを用いたガラスカーテンウォールの2種類が実現している。
当初は、ガラス部分も外壁のガラスと内壁側にはプラスティック製波板を用いたペアガラスになっており、光の柔らかな透過性と断熱性を兼ね備えたものであった。また、外壁側スチールパネルは中心部がなだらかな円弧
状にむくりがとられ、両端がリブ状にそりあがり、そのまま少し外側に広がったパネルジョイントのためのスリットに続いていく。こうした一体成型の優美さと同時にパネルの強度の向上をも達成している。また、ガラス部のスチール折り曲げによるサッシュも微妙な曲線を描いておりシャープさと優美さを兼ね備えている。
一方、建物の1階と2階を別けるコーニッシュラインの部分には水平に連続する航空機のフラップのような形状のガラス屋根のキャノピーがキャンチレバーにより装着されている。
この建物は、各部のカーテンウォールや可動性のシステムなどにより後の20世紀のハイテク建築の先駆的存在ともいえる。
パ リ16区の閑静な佇まいのなか、ひっそりと建っているアパートがある。その存在はどこまでも控えめであり、外壁のアルミのシルバー色のすっきりした表情がわずかに清廉な印象を与えている。しかしながら、徐々に建物に近づいていくにつれ、そのパネルの機構の複雑さと表情の多様さに惹きつけられていく。プルーヴェはこの建物のファサード部分のみを担当した。このカーテンウォールの1ユニットは、建物の階高に相当する3mの高さと1.54mの幅をもち、全てプルーヴェの工場で組み立てられた。ここでは、様々な可動システムの採用とマクセビル工場以降のアルミ材の開発により、クリシーの人民の家からさらに進化したカーテンウォールの姿をみることができる。スチール骨組によって補強されたパネルは、機構上3つのパートに分かれ、最上部はガラス製の欄間であり小さな円形換気口ももつ。中間部はガラス窓であるがこの開閉機構は下部からせり上がる方式であり、独特の機構のバランサーによって極めて軽い力で持ち上がり、どの位
置でも止まることができる。下部の腰壁の外側にはアルミ折り曲げパネルによる雨戸が装着され、この雨戸もバランサーを利用したせり上がり機構をもち、上部にまでスライドしさらに外側に突き出し、遮光板の機能も有している。こうした機構に組合わせによってさまざまな季節に対応し、またこの可動性パネルがファサードに豊かな表情を与えている。
ナンシーの駅から車で5−10分、小高い丘の中腹に控えめにその住宅は建っている。廻りは木々に覆われ、その全景をみとどけることは難しい。わずかに薄い庇の線と、小屋のような住宅には似つかわしくない大きな窓とシャープなサッシュの線がその住宅を特徴づけている。この住宅こそプルーヴェの自邸であり、トラブルによってマクセビルの工場をあとにした直後に建てられた。部品のほとんどはマクセビルの工場にストックされていたものであるが、プルーヴェは処分されるはずの部品をかなりの値段で買わされたという。様々なプロジェクトで開発された木製パネル、アルミパネル、ガラススクリーンなどがパッチワークのようであるが各部にバランスよく配されてる。この建物の施工はプルーヴェファミリーのセルフメイドであり、一夏の内に建てられた究極のローコスト住宅であるが、金属やガラス、石、木製パネルがよく調和し、しっとりした心地よい空間を醸し出している。
アルミニウムの出現から100周年を記念する博覧会の会場として建てられたこのパビリオンは、一昨年再生され、かつての姿がよみがえった。アルミ鋳造による部品や折り曲げ材による架構は、奥行き15m、高さは高い方が7.6m、低い方が5.6mあり、3分割された折り曲げ加工による屋根材とサッシュを兼用する細い折曲げ加工による柱がアルミ鋳造による美しい部材によってジョイントされ、ひとつのユニットをなしている。このユニットが横方向に1.32mピッチで連結し、連続的な無柱空間を実現している。そしてこの間にガラススクリーンとアルミパネルが装着される。当初は巾150mあったが、現在はそのうちの76mが再現されている。この構造体の美しさは目をみはるものがあり、航空機の翼のようでもあり甲殻類の殻のようでもある、雨樋をも一体化したこの微妙な曲面
の連続は、プルーヴェ美学のひとつの極点ともいえよう。
パリ郊外のムードン市の美しい森にその住宅群はある。
金属製住宅は、プルーヴェの大きなテーマであり、航空省の依頼による解体・移設可能な6×6m住宅からの流れをくむポルティークとよばれる門型フレームを中心にもつメトロポール型住宅と曲面
の大屋根によるシェルタイプのコック型住宅の2種類が存在する。また、これ以外にベッキーユ型というエビアンの水飲場などで採用した架構形式もあるが、プルーヴェの架構はどれもプルーヴェが他方で大量
に製作した家具の脚部のデザインに極めて類似しており、その建築を感じさせない架構の形式が面
白い。メトロポール型住宅は14棟あり、8m×8mと8m×12mの2種類ある。
どの建物も1階は粗い自然の石積みであり上部の軽い金属パネルによるキャビンとの対照が美しい。また、この時期になるとマクセビル工場で製造されるアルミ製のパネルや部品が多用されるようになり、軽量
化も進み職人1人で全ての部品を持ち運ぶことが可能になったという。
また、ムードンの住宅群は現在でもどれも極めてメンテナンスよく保持され、住民達に愛されつづけていることが見て取れる。
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