フランスにおける道路プロジェクトに関する合意形成
一般的な事例:モンペリエ地域圏の場合
L'etude et la communication
de projets routiers:
le cas du departement de l'Herault La simulation
interactive en realite virtuelle appliquee
ピエール・コプフ Article de Pierre KOPFF
マリオ・シャルド Mario CHARDES
2/2
モンペリエ北部バイパス
モンペリエ周辺は、道路交通量が極めて多く、特に朝夕のラッシュアワーには、職場と家庭間との往復に加えて、長距離移動も含めたその他の往来が増加する。
この時間帯におけるモンペリエの状況は、ベッドタウンが郊外に環状にひろがる他の多くの大都市とよく似たものになり、移動距離は必然的に長くなっている(平均移動速度も増している)。
モンペリエの「北部地域」は、東の国道110号と西の国道109号に囲まれた地域であるとされている。
注意すべき点は、この北部地域のバイバス道路は、これ以外の南部、東部、西部の各地域と人口密度はほぼ同じでありながらも、これら地域を走る道路よりもキャパシティーが低いことである。
南部地域は、高速道路A9と県道189号が並走している恩恵を被っている。西部地域には、4車線の国道113号が走り、さらに県道13号もある。
北部地域を迂回する車両が使えるのは、2車線、幅7mの県道65号だけである。国道113号が並行して走ってはいるが、こちらは市内に相当くい込んでおり、同じ役割を果
たすものではなく、その等級の格下げが求められる。
県道65号は、北部地域を走る16km区間内に8箇所のロータリー交差点を抱え、うち3箇所はクラピエ村を走るわずか2kmの区間内にある。この道路の渋滞ぶりをよく示すのは、ロータリー交差点で信号を待つクルマの列よりも、これに平行して走る脇道を、村落(ジャクーとクラピエ)中心部近くを通
る不便を犯しながら使うドライバーが次第に増えていることであり、これにより住民の生活は環境面
でも安全面でも脅かされている。
こうしたなかで、県は、特にここ5年間、北部地域におけるバイバス機能の強化に、次のように一貫して取り組んできた。
―県道65号と県道986号の間にある通称 「リラ」と呼ばれるロータリー交差点の立体化
―東(ジャクー側)から、県道65号に近い―迂回/交差路として県道67号(通
称「石―切場道路」) の建設を開始。 ―東(カストリ側)から、より遠方へのバイ―パスとして県道68号(通
称LIEN(外北部―連絡道路)の建設を開始。この道は、ま―だ交通が不便な諸郡(カントン)の道路―の外環バイパスとしての役割も兼ねて―いる。
さて、これら3つのプロジェクトは、1996年から1998年にかけて、表3の使用条件でバーテャルリアリティー化されてきた。
リアルタイムVRシミュレーション発注の経過と条件
県道路局の極めて具体的な要求をうけて、バーチャルリアリチィ・インターラクティブ・シミュレーションという高度技術の道路整備分野への応用とフィジビリティーが問題になったのは、1992年から93年にかけてであった。同局では、ロデス峡谷上270メートルにかかる予定のミイヨ橋の橋床上でめまいを覚える危険性を評価しようとしていた(アヴェイロン県を走る高速道路A75)。
この種の革新的な研究発表支援ツールが普及しはじめたのは、どちらかといえば好都合な状況のなかであった。実際、この時期には、ピレネー山脈をスペイン方面
に貫通する予定のソンポール・トンネルへの連絡道路プロジェクトに対する住民の激しい反対運動が起きていたし、一方では国土整備計画の実施方法、特に協力体制や、特に影響評価段階における環境への配慮に関する法律条文が起案され発表されていた。(v)
エロ県は、このリアルタイムVRシミュレーション技術の誕生をいちはやく知り、すでに1994年末には独自要領に従い発注作業に取りかかった。この発注作業にはそうした前例がなかったため、発注者は工事仕様書も価格表も作成出来なかった。そうしたなかで、次の役務提供を対象に、「設計契約」の規則に従い、入札募集が行われた。
―現実のプロジェクトについての試験模―型の作成 ―工事仕様書と価格表の原案の作成
―VRモデルの作成方法と利用可能性を―示す報告書 県は自らが発注するものを技術的に説明することは出来なかったが、リアルタイムVRシミュレーションがどのように使用されるかについてのポイントは、表4に示すように、最初の入札募集書の規則中に明瞭に説明していた。
いわゆる「設計契約」の手続きを踏めば複数の有資格者に同じ設計を並行しておこなわせることができる。今回の事例ではバーチャル画像処理の専門会社2社がその対象となった。
県は、以上の第一段階を経て得た結論から、リアルタイムVRシミュレーションの納入業者として最適の会社を自ら選ぶことが出来た。こうして、健全な競争という原則を守りながら、県は、1996年から1998年の3年間について「
発注書 」契約形式で契約を結ぶことが出来た。
この間、実際に取り上げられたのは前述の表3に示す3つのプロジェクトであり、以下に示す3レベルのVRモデルについて、効果
的な作業状況でテストする事が出来た。 ―各素案を比較する予備モデル
―プロジェクトを立案し各種の専門検討 ―(道路、排水、構造物、景観等)をすり―あわせるための研究モデル
―議員や住民とのコミュニケーション(調査、協力、発表等)のための最終モデル
実際、リアルタイムVRシミュレーションも、鉛筆や製図板やCADコンピュータなどそれ自身は技術的な解決案をもたらさない他のツールと同様に単なるツールにすぎない。どれを選ぶかは、プロジェクト自体や予定ルート(予備調査時に予定した極めてデリケートな環境におけるルートなど)によるもので、何を最も重視するかによって決まる。
最初の契約は、1998年で終了したため、県はリアルタイムVRシミュレーションのサービス契約を2000年に更新しなければならなかった。今回は経験もあったので、県も競争入札応募者の選考に自らあたることが出来た。対話機能やプロジェクトライブラリー機能を県庁に導入する可能性にかんがみて、県はINRETS(
エスピエ氏)の補佐を受けながら応募者の監査にあたった。
単価は、技術進歩により、この3年間で20〜30%も下がっていた。
今後、リアルタイムVRシミュレーションの利用上中心になりそうなのは、騒音の波及、交差点での渋滞を受けた車両の流れ、夜間照明、さらには大気汚染状態など、環境の他の諸要素を同時に視覚化することである。
県、DVA、PDUの道路計画に関する現在の合意形成
県は、県道の分類、整備基準、整備目標、予定作業などをさだめた「2010道路計画」の一環として、これまでそのプログラム作成に取り組んできた。
―県道網の等級分け ―設備整備基準 ―整備目標 ―計画事業(vi)
2月14日に実施された「エロ県道路の日」に際して、県は県議員に対し、実施計画に関する外部要因が次のように少なくとも7つ存在し、それらによって道路網の新しいニーズ、ないしは整備の必要性が発生している旨を明確に示した。
―「2010道路計画」 ―事業の段階実施5ヶ年計画 ―持続的な開発等の国土整備の大きな選択
―交通安全状況 ―地域の発展(中学校、観光施設、商業―センター)
―国、市町村(コミューン)都市とのパートナーシップ契約 ―都市圏の基本計画(PDU=都市移動計―画書)や実施計画(DVA=都市圏道路計
画書)等の計画書に記されている道路以 外の輸送インフラストラクチュアの発展
国については、その出先機関である県設備局がDVA(都市圏道路計画書)を作成しており、去年9月の公聴資料の発行viiをもってその作業はほぼ最終段階に達している。都市圏道路網の設計施工基本計画としての(国のみの役割を越えた)DVAは、「都市計画と移動組織に関する戦略的考察」の結実たらんとするものである。そのための前提として地域諸代表との密接かつ度重なる協議が必要とされ、最終段階では公聴資料にもとづきこれらの代表の公式見解が下される。(viii)
またPDU(都市移動計画書)は、モンペリエの複数の市町村(コミューン)の集合である新しい広域共同体の枠内で誕生することになろう。この計画書により地方自治体は、自らの交通
計画(路面電車等の公共交通機関の推進を含む道路運営)を輸送とモビリティ(ix)に関するより包括的な政策に組み入れることができる。PDU作成過程においては、開示手続きが明確に計画化されている。
ここで注意すべきは、これらの書類作成手続きの規則は、公聴の原則をはっきりと規定する一方で、その方法については具体的に記していないので、方法については個々の現場責任者任せになっている、ということである。
現実には、議員や諮問機関、諸団体の代表達との公聴は日常的におこなわれているが、市民と直接対面
する公開公聴会が催される機会は少ない。
最後に
モンペリエの事例は現在のフランス、それも特に都市圏を支配する現実をよく物語っている。つまり、あまりに上流段階で反対意見が
「標的」 プロジェクトに集中するのを回避するために、個々のプロジェクトの個別
公聴以外にも、パートナーシップと総合計画(道路と都市計画)がより広範かつほぼ継続的な公聴環境の創出に貢献している、という現実である。
リアルタイムVRシミュレーション等の新たなコミュニケーション・ツールの出現については、これらによって個々の地域が置かれたそれぞれの状況の困難さが軽減されることはないにしても、合意形成に対するこれらのツールの可能性は明らかなようである。
主な出典
a)「エロ県道路建設計画における3次元シミュレーション」 エロー県道路設計技術課長マリオ・シャルド2000年11月20日付論文
b)エロ県都市計画課クリストフ・デリニーとの面談
c)オクタル社営業部との面談
その他の直接的な出典
(i)出典:エロ県ウェブサイト
(ii)出典:モンペリエ地区ホーム・ページ
(iii)エロ県DDEパンフレット「1994年主要事業」及びエロ県が2000年2月14日に開催した「エロ県道路の日」の資料
(iv)出典:地域圏設備局のウェブサイトよりダウンロードしたCPERの最新決算報告書
(v)影響評価、国の約束に関する書類、環境の監視と総括に関する1996年8月の指針を指す。
(vi )「エロ県2010道路計画」紹介パンフレット
(vii )「モンペリエDVA、公聴資料」エロー県設備局、2000年9月
(viii )「DVA、パートナーシップおよび都市開発のシナリオ」CERTU、1997年
(ix) 「PDU、フランスのマスター・プランの研究」後藤幸三、セテック、1999年9月
←BACK
|