フランスにおける歴史的環境の保護制度
Le regime de protection des monuments historiques en France

三宅理一 Riichi MIYAKE

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歴史環境保護のための法令

歴史記念物保護のための組織図歴史的環境の保護を目的とした制度の整備は今世紀に入って着々と進められ、今日、以下の法令が保護の内容を定めている。
(1) 歴史的記念物に関する1913年12月13日法
この法令によって歴史的記念物の定義がなされ、その保護のための指定と登録の制度が定められた。
歴史的記念物とは、歴史的・芸術的価値が公共によって認められた記念物(建築・家具・パイプオルガン)を指し、歴史的記念物上級委員会の答申にもとづいて文化大臣により指定手続を取る。また、指定には到らないものの歴史的・芸術的価値ゆえに保存が必要とされる建造物もしくは建造物の一部は、「歴史的記念物予備台帳」に登録される。その決定は,1985年以降、歴史的考古学的民俗学的遺産地方委員会(COREPHAE)の答申にもとづき地方知事が行う。
指定された記念物は、文化省による事前の許可なくして取り壊し、造り替え(部分的にも)、修復、修理などあらゆる変更行為を行うことができない。また、その所有権の移動についても報告の義務をともなう。さらに、指定された建造物の全体性を損ねるような他の法令(都市計画法規など)から免れることができ、その建造物を収容する場合にも文化省の承認が必要である。
登録された記念物に変更行為を加える場合は、少なくとも4ヶ月前の事前報告が必要となり、文化省がその行為に反対する時は、その記念物を指定に切り替えて変更行為を阻止することができる。特に、登録記念物の取り壊しについては、文化省の承認が必要である。さらに所有権の移動に関しては、指定記念物同様、報告の義務をともなう。
(2) 天然記念物ならびに芸術的・歴史的・科学的・伝承的・絵画的特質をもつ史跡の保護に関する1930年5月2日法
この法令も、歴史的記念物同様,対象となる天然記念物や史跡(site)に対して指定と登録の手続を定めている。  指定された対象地に対する変更行為はすべて文化省の承認が必要である。その際、文化省は県史跡委員会を諮問し、さらにこの委員会が有用と認めた場合には上級史跡委員会を諮問する。指定された対象の所有権の移動に際しては,15日以内に文化省への報告が義務付けられる。指定の命令(もしくは政令)は土地利用計画(POS)の中に区域を明確にして表示しなければならない。
一方、登録された対象地のうえでの工事は、田園基明金にもとづく収容か日常的な維持作業を除いて、フランス建築保護建築家(ABF=architecte des B液iments de France)に対して少なくとも4ヶ月前に届け出をしなければならない。文化省は、その史跡の全体性を損ねるような工事計画に対して意義を申したてることができ、その際、登録を指定に切り替えることができる。登録命令は、土地利用計画の中に区域を確にして表示されなければならない。
周域規定による保護区域(3) 歴史的記念物の周域(abord)に関する1943年2月25日法
指定もしくは登録された歴史的記念物の周り500メートル以内の範囲に計画されるあらゆる建設事業ならびに修復事業は、事前にフランス建築保護建築家(ABF)の承認を必要とする。その規制は、その記念物が1983年法に定める都市景観建築遺産保護地区(ZPPAUP)の内部に含まれる場合、解除される。
(4) 保護区域に関する1962年8月4日法(マルロー法)
歴史的価値をもつ都市や街区を保護するために保護区域(secteur sauvegard氏jの制度が定められた。保護区域の考え方は,一定の区域の中で、その中に含まれる歴史的・芸術的価値の高い建築遺産との関連において建築群(ensemble)や歴史的街区といった「都市遺産」を保護活用することを目的としている。
保護区域の決定は、市町村(commune)の議会による審議の後、保護地区国内委員会の答申にもとづいて,施設整備大臣(建設大臣)が行う。この保護区域の広がりや内容を定めるにあたって、当該市町村の長は施設整備大臣の承認のもとに専門家を指名し、保護活用計画(PSMV)を作成しなければならず、さらに県知事の名のもとに、既存の整備計画や土地占用計画(POS)がこの保護地区に置き換わることを明らかにしなければならない。保護活用計画は、保全を目的として各種の規則を定め、建築的・都市的遺産の活用のための手法を明示し、さらに各々の地割ごとにすべての建造物の処方(保全,取り壊し,建て直しなど)を細かく示さなければならない。
この保護区域の事業を進めるには、国による関係するすべての財政的・事業的支援を総合化することが重要で、たとえば住宅改良計画事業(OPAH)や不動産修復事業などの事業と抱き合わせにすることができる。
ミルクール市ZPPAUの区域(5) 土地施策に関する1967年法(土地施策法)
フランス全国の市町村における土地利用の方向を定め、長期的なマスタープランと具体的な土地利用の内容を定める詳細計画を抱き合わせることによって、都市の将来のあり方を策定していこうとするものがこの法令である。そこで定められたのが、マスタープランとしての土地整備基本計画(SDAU)と詳細計画としての土地占用計画(POS)であった。
土地利用計画によって定められるのは、市町村における建築に関するさまざまな規制をともなう用途地区であり、歴史的・芸術的な価値をもつと判断される地区は、そのようなものとして建造物の用途、形態、容積率など、細々とした制限が付与される。その策定は市町村に任せられ、国はそれに参加協力する義務をもつ。
(6) 市町村、県、地方および国の間の権限分配に関する1983年1月7日法
ミッテラン政権のもとでそれまで中央の官庁に集中化されていた種々の権限を地方に分散化することが定められたが、都市計画権限の分散化はその中でも最重要課題として位 置付けられた。歴史的環境の保護はその一部となっている。
この法令では、1930年法に定められる「保護地区」に置き換わる広域の保護地区、すなわちいくつもの市町村にまたがりうる「建築都市遺産保護地区」(ZPPAU)を定め、県知事よりも上位 に位置する地方知事の下でその内容を調整するかたちとなっている。歴史的環境のみならず、自然景観やその他の保護すべき環境を含めて広域的な地区を定めるものである。その点で、土地利用計画の延長線上あるが、ひとつの市町村だけでなく、いくつもの市町村にまたがって広域的に土地利用の計画を定めることができるのが特徴である。また、既存の土地利用計画を解除するとともに、1943年法の周域規定に変更を加えることが可能となる。
ZPPAUの指定手続き「建築都市遺産保護地区」(ZPPAU)の区域は、歴史的記念物の周域規定と登録史跡といった文化財的な保護区域規定と、土地占用計画(POS)による土地利用のための計画が重なったものと理解できる。実際の市街地や自然環境の広がりに応じて、カテゴリックな周域規定を補正し、逆に必要なところには保護対象区域を広げるようにする。その区域内においては、いかなる建造物の変更行為もフランス建築保護建築家の承認なしには行いえない。 その策定にあたっては、市町村の発意にもとづいて遺産史跡地方会議の答申がなされ、地方知事の命令によって「建築都市遺産保護地区」が定められる。この決定が上級官庁に移送されてきた場合には、施設整備大臣がこの命令をだす。この手続が上級官庁に移送された時、この地区内に指定ないし登録歴史的記念物がある場合には、文化大臣の意見書に沿って施設整備大臣が決定を下す。